white day




 お返しというものがあるのだそうだ。
 もらったら、返す。
 実に基本中の基本だな、と、ゾロは頷いた。
 その情報はロビンから面と向かって直接耳に入れられたのだが、それは多分彼女なりの礼なのだろうと知れる。つい先日、新しい船の門出を出航しながら祝うという、どこか本末転倒だが自分たちらしい、実に盛大な宴会があった。
 あまりにも楽しいその宴会で、思った以上に酒量はかさみ、いつしか眠ってしまった女衆をゾロが1人で温かい部屋へと運ばされていたことをきっと誰かから聞いたのだろう。
 そんなことは普通だろうし、別に恩に着ることもないはずなのだが、ロビンは妙にそういう所に拘る癖がある。
 自分に振り掛かる親切は、とてもとても新鮮なのだ…とそれこそ笑い混じりに呟いた彼女は、海の照り返しの輝きを瞳に宿して、今まで以上に穏やかで綺麗だった。
「お返しってなにすりゃいいんだ?」
 だからだろうか。こちらも穏やかに疑問を投げかけた。ウォーターセブンの一件前と、後とゾロの態度は実はあまり変わっていない。だが、実はそれこそが、ゾロがロビンをもう随分前から麦わらのクルーとして受け入れていたということを示している。
 それが分かるから、更に嬉しい。と口に出さずに重ねられる喜びにロビンはゾロへと躰ごと視線を流す。
 流れる潮風にふわりと髪をなびかせ、ゾロを見たロビンはあどけない笑みをのぼらせた。
「あなたが、もらって嬉しいと思った気持ちを、正直に表せばそれでいいんじゃないかしら?」
 自分は今、それをどう返せばいいのか毎日考えているわ。
 あなた達皆からそれこそ湯水のごとく受け取るたくさんの嬉しいを。私なりにどう返そうかしら?
 そう告げて。そのことがとても楽しくて嬉しいのだと。
 ロビンは笑う。
「んじゃ、お前に俺は何を返せばいいのか、考えとく」
 軽くそう言うと、ロビンは本気で目を丸くして自分を凝視し、それからとてもとても嬉しそうに破顔した。
「…ありがとう。それこそ十分なお返しだわ」
 まだ何もやっていないというのに、そのあまりに嬉しそうな様子にゾロは困惑した。何が彼女の琴線に触れたのかは、やはり分からなかったのだが、喜んだのならそれでいい。
 今日という日が、そういう日だと言うのなら。

 さて、と日差しが緩くそそぐ緑の甲板ではなく、キッチンへと足を進める。
 2月の14日に戴いたものに対して、一月後の今日はそのお返しを基本的にするのだという。
 お返し。
 そう呟いて、首を傾げる。
 返せるものが、自分にあるとは思えない。だが、先月。あの男はゆっくりと歩み寄って、これ以上はないと思える程甘い…自分の口に合うものをくれた。
 まるごと全部くれた。
 ならば、返すものは、これしかないのではないのだろうか。
 あの時、貰った時の驚きのまま、自分は何も渡さずに受け取るばかりだった。
 勇気がいっただろうに、それをおくびにも出さず、でもどこか必死にやってきたあのコック。自らで自らを料理して、必死で差し出した彼に。
 受け取ったのだから。
 …返したい。

 ドアを開ける。
 優しい香りが、途端にゾロを包む。
 柔らかい湯気を立てる鍋の奥で、今は料理しているコックの顔が真正面に見える。
 隠せるものはなくなった、このキッチンで。楽しげに料理するコックがいる。
 返しきれるものではないだろうけど。
 でも、とりあえず。
 今は。

「おい、コック!」

 あの彼女と同じように、嬉しげに笑う表情が見られるだろうか。

終了(2007.3.14)




突発sss。すっかり忘れていたホワイトデーになんだか申し訳なくなったので(笑)
日記に上げようと書いたんだけど、せっかくだから駄文の一つとしてこちらに。
新しい船らしいです…(笑)



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