狐宴






 ふと気付けば、辺りはねっとりとした橙色の光に包まれていた。見渡す限りが茜色に染まっている。
 腕を振り回せば、そのまま空気が動くのが見えそうな程に、質感のある見事な夕焼けだ。
 何もかもが夕日に染まりきり、この世の全てが生まれた瞬間からこんな景色だったのではないだろうかと思わせるくらいに。
 浄土というものへはこういう景色から続くのではないか、などと埒もない考えが浮かんできそうだ。
 ゾロは無意識に周囲を見回した。
 遠くから打ち寄せる波の音が聞こえる。
 いや、違う。これは葉ずれの音だ。
 揺れない大地に降り立ったのは、3日前のはずだ。空島から戻り、やたらと長ったらしい島で大笑い海賊団に絡まれたのが記憶に新しい。
 出発してから、わずかな休息と食料を求めて寄った島は、ログの溜まりが異様に遅いということで、暫く滞在することにした…はずだ。
 その辺りのことは、ほとんど寝ている間に決められたので、事後承諾と説明を受けた範囲でしか覚えていない。
 目の前に広がるのは、この夕焼けの中にあって、風の通り道を見事に描き出す黄金の群れ。
 頭を垂れた稲穂の海が葉ずれの音とともに、ゆうるりと流線を描いては消してゆく。
 眠っていたつもりはなかった。
 ただ気が付いたら、ここにいた。そんな気分だ。
 体中に、やもすれば気怠いような鈍さが滲んでいる。これは昨夜の残滓かもしれない。
 無茶をした。させてしまったあいつは…と脳裏にその姿を描こうとした瞬間、先程までの余韻のような感覚がよみがえる。
 なんだか     夢を見ていた気がする。
 この島に来てからこっち、ゾロは少し弛んだ己のたがに気付いていた。
 多分、それはこの島の景色のせいだ。
 緑の濃い香り、匂い立つ大地と水の入り交じった匂い。風の音に水の音。あちこちから響く虫の声。遠くで騒ぐ人の声さえもが、ゾロの記憶を刺激する。
 …懐かしい。
 そんな気分だ。


「へぇ、懐かしいのか。お前の故郷ってヤツに、ここは似てるのか?」
 背後から響いた声に、ゾロはわずかに眉根を寄せた。
 もの凄く記憶にある声だ。だが…気配がない。いや、確かに今見回した時に、ここに人はいなかったはずだ。
 しかも、この男は確か、今日は…。
 幽かに煙草の匂いがする。何気ない仕草で振り返り様、右腰の刀を抜刀する。
 重い音と共に左足を立てたゾロは、見事な伸身で反り返り背後へと逃れた痩身を己の刃越しに見た。
「あっぶねぇなぁ。殺す気かよ。物騒にも程があるぜ」
 金の髪をさらりと流し、男はニヤリと笑む。
 その姿はどう見ても、自分達の船のコックのはずだ。だが、絶対にコックではない。
 それは一目見ればわかる。だが…本当にこれはコックではないのだろうか?
 マジマジと見れば見るほど、それはコックだ。金の髪、あり得ないことに巻いた眉、片目だけしか見えない青い瞳、うっすらと顎に生やしたひげ、のど仏と首の細さ。鎖骨の浮きで具合。
 昨夜堪能したままに、どこもかしこもそれはコックそのもののように思える。
 ゾロは刀を引くと、あっさりと腰の鞘に戻した。
 敵意はまるで感じられない。そして、この男は消えない。ならば、これはこのままにしておくしかない。
 ここは自分の故郷に似ている。だとすれば、多分、こういう感覚もきっと間違ってはいないのだろうと思う。そう、こういうモノには逆らわず、流れに乗るしかないのだ。
 自分達が静養に使っている宿は、完全な和風建築だった。ルフィ達は、ほんの少し物珍しげに辺りを散策しては、毎日楽しそうにあちこちを探検してまわっている。
 ここは温泉も出るということで、ナミもロビンも、美容に良いという温泉三昧。
 懐かしい畳に、ゴロリと横になれば、イ草の香りが気持ちよく包み込む。
 どうにもならないなら仕方ない、と目を閉じようとすれば、焦ったように男がにじり寄ってきた。
「おいおい、物騒に刀振り回したら、今度は寝るのかよ! お前どんだけいい加減なんだ!」
「…うるせぇ、寝る」
「寝かせるか、ぼけ!」
 ぼけとまで言われて、ゾロはしぶしぶと目を開けた。そのままゴロリと体勢をかえて、横になったまま肩肘をついて頭を載せる。
「なんなんだよ、お前は」
 しようがなしにそう言うと、目の前の男はほんの少し笑い、おっ、と目を丸くした。
「おいおい、外見ろよ、こんなにすげぇ天気なのに、雨だぜ」
 とたた、と屋根を打つ雨粒の音がする、そして地面を叩く幽かな音と水の匂い。
 さぁっと凪ぐ風に確かに水の気配がする。
 ねっとりした夕焼けではあったが、雲は欠片もなかったはずだ。
 天気がいいのに、こんな風に雨が降ることを、確か村でも何か言っていたはずだ。
「…天気雨だなー。こりゃ。珍しいというか、珍しくないというか。ナミさん達大丈夫かねぇ、今日はここの自慢の露天風呂を堪能するんだって言ってたけど」
「すぐ止むだろう。天気雨ならよ」
「ま、雲はないからな、多分そうだろう」
 どうしてこんな男と自分は会話しているのだろう?
 そう思いつつも、仕方なく、ゾロは躰を起こした。それを見てにまんと笑った男は、膝をつめ、あぐらをかいた。
 胸元から取り出した煙草の箱から一本取り出し、横から銀色の灰皿を引き寄せる。
 …灰皿はそこにあっただろうか? そう一瞬思ったが、どうでもいいので、もう考えることは放棄した。あるのだから、もういい。
 男は煙草に火をつける。その瞬間少しだけ、目を細めたのに、ゾロは目をとめた。火がわずかに青く感じた。
「で?」
 吸い込んだ煙を、美味そうに吐き出し、ニッと笑う男が告げた言葉に、ゾロは片眉を跳ね上げた。
「あ?」
「あ? じゃねぇよ。夢みてたんだろ? 懐かしい故郷のよ、どんな夢なんだよ」
 ゾロは男を見た。コックの姿をした、まるで違うなにか。
 鋭い視線に、目の前の男は笑みを崩さずに、優雅に煙草をふかしている。
 その姿もまた、コックらしく…まったくコックらしくない。
 大きく息を吐き出し、諦めてゾロは口を開いた。

「ガキの頃の話だ」



 まだ自分は小さく、できることは少なかった。なのにそれにも気付いてはおらず、勝てない道場主の1人娘につっかかって、勝負をしては惨敗しまくっていた頃のことだ。
 あれがいつのことなのかは、覚えてはいない。
 覚えているのは季節。
 秋の、夕方のことだった。
 その日、村では大きな祭りが行われていた。
 村にある鎮守の神様のお祭りは毎年行われてはいたのだが、その年はいつもと様相が違っていた。
 古老によれば、なにやら区切りの年だったらしく、いつにも増して盛大だったのだ。
 近隣から出稼ぎに出てきた者達による屋台の群れは、通年の数倍にも達し、夜を嫌うかのように掲げられた提灯があちこちで揺れ、いつもの村はまったく別の姿を見せて子供達の度肝を抜いた。
 その当時から、神様なんぞまったく信じてはいなかったゾロでさえ、その賑わいには心躍らさせられた。
 身が入らない日課の素振りだけはしようと道場に篭もってはみたが、その間も外が気になって仕方なかった。
 他の子供達は今日は練習の解禁日と浮かれた空気に染まったかのように遊び歩き、聞こえてくる賑やかな声やお囃子に蝶のようにひらひらと漂いまくっていた。
 ゾロがなんとか自分の日課を終えた時、辺りは今日のような見事な夕焼けに染まっていた。
 何もかもがまるで、蜂蜜に溶け込んだようにさえ見える夕暮れに沈んでいる。
 呆然とそんな村の浮かれた様子と、漂う空気に見とれていた時だった。
 騒ぎの中心の方から、名前を呼ばれたような気がした。
 ほんのちょっと目をしばたかせ、ゾロは辺りを見回した。気付けば、自分はゆっくりと祭りの中心部へと歩いている所だった。
 金魚すくい、射的、わたあめ屋に、ポンポン菓子屋の派手な音。風船釣りにお面屋、リンゴ飴に金平糖、ラムネ売りの横では、砂絵描きが、綺麗な絵を地面に描いている。
 ほんの少し先では、お囃子に小さな獅子を被った子供がくるりくるりと宙を舞い、風車を持った子供がその近くを走り抜ける。
 なんだろう。
 どうにも不思議な気分で、ゾロは縁日の最中を歩いていた。さっきまで、自分は確かに道場の広場にいて、振り終わった竹刀を片手に遠くからここを見ていたはずだ。
 手元を見下ろせば、自分は確かに竹刀を持っている。感触もある。ということは、夢ではないらしい。
 持ち上げた竹刀で、確かめるつもりで己の額をこつんと叩いてみた時だった。
 コンコンと笑う声が聞こえた。
 は? と顔を上げれば、そこには目尻を赤く塗った狐のお面を被った1人の青年が立っていた。
 夕日に染まって、風になびく髪が金色に輝いていた。本当に金髪だったのかは、覚えてはいない。
 ただ綺麗だな、と何故か子供心に素直に思っただけだった。
「この色が好みか?」
 やや低い声が、自分の髪をつまんで面白そうに告げる。ゾロは頷いた。
「綺麗だ」
 青年は大きく笑って、腰を折るとゾロの目線に合わせてきた。
「たらしの要素は十分だな、お前。それを綺麗なお姉さんの前で言ってみろよ、みんないちころだぜ」
 首を傾げたゾロは、面倒そうにため息をついた。
「お前の髪が綺麗なんであって、見も知らない女の人が綺麗かどうかは見ないとわからないから、そんなこと知らん」
 その答えに、青年は爆笑して今度は本気でしゃがみ込んだ。
 何がそこまでおかしかったのか、というくらい大笑いをし、腹を抱えて、苦しい! と呻く。
 呻きながらも、お面越しにゾロを見ては、また爆笑する。
 いくらなんでも、そんなことをされればゾロだって腹が立つ。
 こんな祭りのど真ん中の場所で騒ぎを起こせば、辺りの大人からよってたかって追い回されることも、よーく知っていたゾロは、一度きつく青年を睨むと、踵を返そうとした。
 そのまま青年の前からいなくなろうとしたのに、ほっそりとした長い指がそっとゾロの腕を掴んだ。
 まだ小さな腕に、青年の指は綺麗に巻き付き、それにゾロはなんとなくイラつくのを覚えた。
「悪かったよ、待てよ、ゾロ」
 まさか名前を呼ばれるとは思わなかった。
 驚いて振り返ったゾロを、お面を被ったままの青年は、しゃがみ込んだまま見上げるようにしている。
 その時に初めて気付いた。
 青年は実りきった稲穂のような色の浴衣を着ていたのだということに。
「…せっかくの縁日だっていうのに、お前はずっと素振りしてただろう? もう終わったのか?」
 なんでそれを知っているのかと、問おうとしてやめた。なんとなく、そんなことをしても意味がない気がしたのだ。
 だから素直に頷いた。
「終わった」
 そうか、と笑ったらしい青年に、ゾロは不思議そうに膝を折ってお面越しに今度はゾロから目線をあわせた。
「お前は誰だ?」
「…いい質問だな、このお子様は。直球かよ」
 青年はほんの少し呆れたように肩を竦め、それから今度は真面目そうな声で告げた。
「お前には、おれはどんな風に見える?」
 本当に聞きたそうな声に、ゾロは仕方なさそうに見たままを言葉にしてみせた。
「金色の髪の男。狐のお面かぶってて、顔はわからん。後は浴衣着てて、色が白い」
 わずかに青年がのけぞった。
「見たまんまだけかよ! まったく情緒がねぇ子供だな、ゾロ」
「なんでお前おれの名前知ってるんだ?」
 不思議そうに問うたゾロに、青年は「あー」と間延びした声だけを発して、首をふった。
「祭りだからな」
 言いながら膝を伸ばすようにして、起きあがる。
 つられてゾロも立ち上がったが、ゾロが見上げるくらい青年は背が高い。
「祭りだとおれの名前がわかるのかよ」
 傲然と見上げるゾロに、見下ろした青年は、肩をふるわせた。笑ったらしい。
「わかるのさ、お前だけはな。…ロロノア・ゾロ」
「お前、村のもんじゃねぇ」
 断言するゾロに、青年は声をあげて笑った。
「村のもんでもあるし、そうでもないな。でも、おれはお前を小さい頃から知ってるんだよ」
 最後の方は優しい響きが混ざっていた。それをゾロは不思議そうな顔で聞いている。
「今日は特別だ、ゾロ」
 青年は小さな少年を見下ろすと、そっと緑色のツンツン頭に手を置いた。
 どこかヒヤリとする感触を、ゾロは黙って受け取った。受け取るのが、当然のような気がしたのだ。
「だから、教えてやるよ。小さい剣士」
 ゆっくりと髪をなでる仕草は、風がそよぐようでもあり、やさしく慰撫されているようでもある。
 ゾロはじっとお面の青年を見上げ、視線を逸らさない。
 それに満足したように、青年は一つ頷いた。

「大きな輝きに出会うんだよ、お前は。そして苛烈で、過酷で、恐ろしい程に楽しくて、死と隣り合わせの毎日がやってくる」

 青年は空を見上げた。

「沢山の音が聞こえる。悲鳴もだ。澄んだ鐘の音も、叫ぶような女性の声も。汽笛かな…そんな音まで聞こえてくる。お前は刀を手にする者になる」

 ゾロは頷いた。それは当然のことだ。聞くまでもない。
 だが、こちらを向いた青年の雰囲気は大きく変わった。

「血まみれの…匂いがする者になるんだよ」

 何故だろう、一気に青年の周囲に闇が凝った。
 だが、ゾロは頷いた。それもまた当然だというように。
 恐怖は感じない。
 青年の髪が金色に揺れている。ただ、それだけが妙に目を引いた。

「己が生死を刀に賭ける者よ、愚かな者よ…だが、真っ直ぐに行く者よ。覇王と共に行く者よ…。死は何より身近でお前と共にあり、そうして…お前から最も遠くにあるものと知れ。それがいかに、苛烈な地獄を行くものとなるのか、お前は身を持って知るだろう」

 青年は自分を揺らがずに見上げる少年へ、顔を近づけた。

「それでも行くか? ロロノア・ゾロ」

 少年は頷いた。
 それ以外、道はないとでも言うかのように。
 その瞬間、青年がぴょんと背後に飛び退いた。それこそ、バネ仕掛けの人形が飛び跳ねたかのように。
 コンコンと青年が笑う声がする。
 そのしなやかな腕が、己の頭の後に伸ばされる。

「行くに決まってるよな、お前は。そうだ、お前は行くんだ。過酷だぜ、辛いぜ? …でも、幸せだ。お前は沢山のものを無くして、同じくらい沢山のものを手にする。そうして、大切な者も手に入れる…」
「……本当か?」

 するりとそんな言葉がゾロの口からこぼれた。
 自分でも、何故それに反応したのか分からなかった。ただ、最後の言葉だけはどうしても、聞き返したくなったのだ。

「本当だとも、今日は特別だと言ったろう? おれは嘘は言わない。それが証拠に、おれが言った通りになったとしたら       

 お囃子の音が大きく鼓膜を打った。
 はっと意識を戻したゾロの前で、青年の姿が目の前を過ぎった大人の影に隠れていく。
 慌ててその姿を追おうとしたゾロの前に、何人もの人がさざめきあって通り過ぎていく。何故今まで、それに気付かなかったのかというかのような、人の多さだ。
「待て、ちょっと、待てって…」
 人をかき分けるようにして、青年を追うゾロの視界の奧で、彼がゆっくりと狐のお面を外すのが見えた。
 ずらしたお面から、赤く染まった薄い唇が見えたと思った時、耳許で声がした。

「でも、お前は忘れるんだ…探せよ、この姿を。まだまだ小さな坊や…」



「それで?」
「次に目を上げた時には、もうあの男はいなかった。どんなに探しても、見つからなかった。まるで、消えたようにな」
 それで話は終わりだ、と切り上げるように口をつぐんだゾロの前で、男がコンコンと笑った。
 はっと、ゾロは顔を上げる。
 目の前にいるのは、あぐらをかいた膝に肘をつき、頬杖をついた金色の髪の青年が一人。
 それはコックのようでもあり、あの青年のようでも…。

「な? 言った通りになったろう?」

 思わず青年の腕を掴んだ。
「うおっ! 何しやがる、このアホ!」
 驚いたのか、片目を丸くして硬直するサンジが喚いた。
 あ? とマジマジとその顔を見つめれば、それは確かに自分達の船のコックで。
 偽物ではない、あのあやふやな者ではない。それは本物の「サンジ」だ。
「おーい、寝呆けてるのか? いい加減手を離せ、この唐変木」
 目の前をひらひらと掴まれていない方の手で揺らすサンジに、ゾロはその手を離した。
 これが本物だとすると、今までいたのは? いや、そもそも、あれは本当にいたのか? いつの間に、こいつはここに来たのか? 最初から…いたのか?
 それより、"今"は?
 慌てて、辺りを見回したゾロはまだ静かに降り続いている雨に目をやった。
 いや、降り始めた所なのだろうか。
 とたたた、と鳴る雨の音とうっすらと濡れた地面に落ちる雨の雫の模様がはっきりと見て取れる。
 相変わらず、密度の濃い夕焼けが広がり雲一つない。
 外を見るゾロにつられたのか、サンジも外を見て、ああ、と吐息に近い声を上げた。
「もうそろそろ止みそうだな、小雨になってるじゃねぇか。珍しいもの見たよな。こういう天気雨、なんとか言ったってお前、前に言ってたよなぁ」
 蜜壷に落ちる小粒の氷砂糖を見るような、そんな雰囲気の空にサンジが面白そうに笑う。
「…ああ、『狐の嫁入り』って…」
 言いながら、ゾロはふと自分が何かを握っていることに気付いた。
「ああ、そうだったっけ、またなんで嫁入りなんだか…って、なんだよお前。ホントどうしたんだよ。ぼうっとしてよ。大丈夫か?」
 聞いてくるサンジを無視して、ゾロは握っているものを目の前に掲げた。
 目尻を赤く縫った、狐の面。
 張りぼてのお面は、どんな年月を送ってきたのか、古ぼけて黄色くなっている。
 あの村の鎮守の神様はなんだったか…確か、あれは…村の豊穣を司る神様とか言っていた。神社の入口にいたのは、確か、2匹のすらりとした姿の獣の…。
「…狐…」

      おれが言った通りになった時には、また会おうぜぇ』

 あの時の青年の声が、今囁かれたように耳の奧に響いた。
「お前、こんなお面持ってたのか? おーい、本当に平気かよ、お前自分の誕生日に倒れるなよ。今日は宴会だって、ルフィ達がもう手ぐすね捻って待ってるんだからな…聞いてるか!? ゾロ!」
 のろのろと顔を上げた男に、サンジはにんまりと笑みを浮かべ、後手に隠していた大きなお重を取り出した。
「お前の記念すべきバースディには、おれ様特製の夕飯が待ってるんだ、絶対喰えよ。リクエストはこれでいいんだよな? 見ろ、見事なこの三角のいなり寿司を!」
 いそいそと差し出したお重の蓋を開けた時、サンジはこれ以後、一度も見ることのない、珍しいものを見た。


        ゾロは狐につままれたような顔をしていた。





終了(08.11.11)





…ゾロ誕付け足しにしか思えないけど、祝っております! おめでとう! 永遠の19歳!
心意気と勢いのみの、ゾロ誕期間中DLFでした。
期間は終了しましたが、文句はそのまま記念に残してみます(笑)
貰ってくださった方々ありがとうございました!




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