断章





 右。
 思考より早く躰は動く。
 腰撓めに上体を流し唸りを上げて揃えた両腕が二本の軌線を流す。
 吹っ飛んだ男達は視界の隅に捨て、流れた躰の動きそのままで眼前に来た男へと、下段からそのまま二刀を持ち上げる。
 吹き上がる風が地面の土ごと血しぶきを噴き上げ、二線の流れに沿ってやはり男達が仰け反って倒れ込む。
 下りる勢いを殺さず、交差させた両腕を大きく広げ首をわずかに動かし横から伸びてくる刃を弾き落とす。
 同時にやはり眼前に来るハメになった男四人が悲鳴をあげて赤い飛沫をまき散らす。
 左奥。
 左の腕が反応した。
 きりっと回した刀を逆手側に流したと同時、下段から流れてきた大きな剣を受け止める。
 力任せのそれを体重をかけて落とし込み動きを止め、そのまま体重をのせて崩れた体制のまま足を滑らせる。
 ぐらりと傾いだ勢いのまま、軽く身をうねらせれば、男の首筋が三本目の刃もとに来る。
 悲鳴さえあげる暇はない。

   躰を隠す場所などどこにもない、ただの大地が続く場だった。
 わずかな起伏、枯れ草がわずかに大地にしがみつき、必死に風をしのいでいる。そういう何もないただの広場に近い。
 遠く、大きな森は見える。
 そこに行けば、多分集落もあるのだろう。
 だがそこに行くことはない。また、行くことを誰も許しはしないだろう。
 ぐわりと自分の気が高まるのが分かる。
 両足を広げてふんばり、腰を落とす。交わり構えたまま、息を吐く。
 大きく長く、一度。
 ゆらりと視界が回る。きつく巻いたバンダナの下から目をやる。
 男達の皮膚がざわりとそそけ立つのが見えた。張りつめた空気の中、ひっと誰かが息を呑んだ。
 何が起こったのか分からなかっただろう、動けない男達がまるで爆風に跳ね飛ばされたように吹っ飛ぶ。
 その流れに乗るよう、まるで弾丸のように低い位置から白銀の閃きが流れ込み、後ろに重なっていた男達が大地にのめり込んだ。
「なにしてやがる! 回り込め! 相手は一人だっ!」
 遠くで喚く声に、三本の刀を自在に操る男の右腕が上がり、己の腕に添わせるように手首と共に刃を倒す。
 近くにいた男達の耳が、何か得たいの知れぬ唸りを捕らえた。
 瞬間、男の手首がぐるりと回転し、黒い刀からの銀線が小さく螺旋を描いて声の方角に切っ先が流れた。
 遠くで何かが裂けるような音に続いて、砕けるようなくちゃりとした音が響く。
 そちらを見ることもなく、男はゆっくりと躰を起こした。
 口に銜えた刀は白。
 左に赤、右に黒。
 刀は三本。
 がっしりとした体つき。だが、そこまで大きな体格ではない。大男というなら、まだいくらでも探せば出てくるだろう。ただ、鍛えているのは、シャツ越しにでも分かる。
 左の耳に三連の金のピアス。
 黒いバンダナの下の鋭い眼は、酷く冷酷な光を宿している。
 いや、それとも何もかもを映し込みすぎて、冴えすぎているのかもしれない。
 男の前に広がるのは、幾人もの倒れ臥した男達と今だ剣や刀を構える残り十数名。
 左右には、銃を構えた男達がやはり十名近くいる。
「撃て!」
 どこからかわき起こった言葉と同時に豪放が轟き渡る。
 地を蹴った男の躰は構える男達の間中に飛び込み銃弾の乱舞をすり抜けたと同時に、次々に振り下ろされる刃の渦をまるで流れるように、時に踊るようにすうるりと滑り抜ける。
 男がすり抜けた後には、刃を振り下ろした者達は一人も立ってはいない。
 ある者は胸元、ある者は腹、ある者は縦一文字に、赤い色をまき散らして仰け反って倒れていく。
 男は止まらない。
 その場で大きく三本を構え、また腰だめに落とす。
 銃口が一定の距離をおき、男を取り囲んで狙う。
 その一瞬。
 男の躰が回転したように見えた。
 いや。
 空気か。
 男の三本の刀が輝点を流したかのように見えた瞬間。
 特大の竜巻が辺りを巻き込み、悲鳴すら呑み込んで土砂ごと全てを巻き上げた。

 時間にしたら、どのくらいだったのだろうか。
 そこには、男が一人。

 遠く遠く、微かに見える青と銀に輝く色の奥には、どこかのんびりとしたライオンヘッドの船。
 男は両手の刀を鞘に納め、口に銜えた一刀を右手にした。
 そのまま膝をつくように崩れ落ちたとみせ、背後へと切っ先を押し込む。
 ごぼりと音がして、小さく何かが落ちる。
 真っ赤に染まった。それは大きな刃だ。
 ゆっくりと、男は立ち上がる。
 一歩、足を進める。
 どさりと重い音がして、鉄さびに似た匂いが一層濃厚に漂う。

 男は大きく刀を振り、刃に残る鈍色をわずかばかりにも落とす。
 腹巻きから取り出した布で、刃を吹き抜き鞘に戻す。

 大きく風が吹いた。
 男のこめかみから、一筋の雫が落ちる。袖でぬぐうように腕を上げ、そのままバンダナを取れば鮮やかな緑の髪。
 金の光が三つ肩口に踊れば、男の口元がわずかに上がる。

 乾いた大地に倒れ臥す男達を背に、腕にバンダナを巻き直した男が嗤う。

 前しか向かぬ男の。
 前しか向けぬ男の。
 

        断章。


 
終了(09.11.24)ゾロ誕オーバー中T_T




ゾロの戦闘技オンパレードを一度ちょっとやってみたかったんです…生ぬるいですが。
詳しく書こうとして、お前は何を目指してると我に返ってこのていたらく。短い話となりました…orz
戦うゾロでいてください。おめでとう、剣豪ゾロ!



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