パンクハザードにいる時には、まったく気付かなかったが、麦藁の一味のナンバー2と呼ばれる男、ロロノア・ゾロとその船のコックである男サンジはデキていた。
…どのくらいデキているのかと言えば、一味の間では公認どころか、もう夫婦扱いされているくらいにはデキていた。
というか、まとまっていた。
はっきりいって、一緒に乗り合う形になった錦え門とモモの助親子が顎を落とし、これまた捕虜として捕まえてきたシーザーがはかなくガスとして消え去ってしまいそうな程に、自然にできあがっていた。
その時の衝撃というか、
「わぁ、いいのかよぅ、乗り込む船まっちがえたぁ!」
と思わず心の中の声がダダ漏れしてしまうくらいには、ローも驚いた。
ちなみに普段そんな言葉をローは使わない。思いつきもしない。
けれどその時はもう、そんな風に自然に頭が拒否というかはっちゃけるくらい、思考が停止していたのだ。
船に乗り込み出航して、ある程度落ち着いた所でこれからの話合いをしたまでは、まあ普通だったように思う。
この二人のことなど、眼中どころか頭にもなかったので観察すら程々にしかしていなかったので、それが普通だったのかどうかは実は疑問が残るが気にしない程度のこと。
だが察する必要もないくらい、堂々と日常会話が交わされ出したら一発アウトだった。
きっかけは単純。どっかりと芝生甲板のマスト下のチェアに座り込んだローの前を、たまたま通り過ぎようとしたゾロに、飲み物を配達した銀の盆を抱えて回収にきたらしいサンジがすれ違ったのが最初だった。
ふと顔をあげて顔をしかめたサンジは、それはそれは嫌そうな顔つきで唸るようにゾロを呼び止めた。
「おう、てっめぇ今日は風呂入れよ、妙な匂いするぞ。血ならおれだって興奮できるが、毒ガスくせぇのは耐えられねぇ。どんな苦行だ。待ってやるから絶対風呂入れよ」
「あ?」
言われたゾロが剣呑な声をあげたのは予想通り。ただしその次の行動は予想外だった。ゾロは間髪入れずにサンジの首根っこを掴んで引き寄せたのだ。
うぇっ、と小さく抗議のうめきをあげたサンジを丸無視し、その襟元に顔を突っ込んだゾロにローがポカンと口を開けたのは無理もなく。
さらにたまたま側で治療をされていたシーザーも口を開けていたが、まあそれはどうでもいい。
「てめぇからは、あんまり匂いしねぇな…食い物の匂いだ。あれか? あの大鍋のヤツか」
首筋をまるでくすぐるように…いや、もしかしたらあれは…舐め…。
硬直している乗り合い組など気にした様子もなく、サンジはくつくつと笑うと、くわえていた煙草を取るようなふりで、首元のゾロの頭をゆっくりと撫でてから一叩きした。
「なぁに獣みてぇなことしやがる、やめねぇか」
それからさも当然のように、煙草を口元から抜き取り、ふっと紫煙を吐き出す。いや、何気ない仕草はそれだけを見ればそこそこ決まっているのに、首もとには男が張り付いている。
しかも首もとの男の手は、細いそのサンジの腰をしっかりと握っているのはなんたることか。
はっきり言って、一目見ただけで分かる女性崇拝者の男だと思っていたのに、この一連の流れはどうしたことだ。いや、男好きだったのか? と脂汗を流しながら考えたが、どう考えてもそれまでに思い当たる所は出てこない。
これはあれか、精神疾患のなんかなのか? とつい己を疑いたくなったのも、この際仕方なかったかもしれない。
二人はくっついた時と同じように、何事もなかったかのように離れたが、なんとなく距離は近いまままだ話を続けている。
「今日は風呂は…」
「入れよ。島で究極に暑かったり寒かったり海に沈んだり毒ガスまみれになったり、洒落になってねぇ。今日はくせぇのは気分じゃねぇぞ」
「ああ? 久しぶりなんだから、気分出しとけ」
「お前こそ気分出す程度には身ぎれいにしろって言ってんだよ! ったく二年経ったらデカ物まで容赦ねぇんだから、ちったぁ人様の鍛えたもんに入ろうって礼儀を身につけろ」
けっ、と吐き捨てるように言っているが、それはどういうことなのだろう。
いやそのものズバリのことでいいのか? いいのだろうか?
黙って混乱していると、傍を走り抜けたルフィが「ヒューっ! ほもぉ!」と笑いながら囃していく。
そうかやっぱりその解釈でいいのか…と思わず遠い目をしたローの横で、ゾロとサンジから一刀とケリを受けたゴムが甲板を楽しそうに跳ねていく。
「うっせぇぞゴム! こっちは切実なんだよ!」
わめくサンジに、シーザーの治療を黙々としていたトナカイの可愛らしい船医が溜息交じりに声を掛けた。
「潤滑剤バージョンアップさせといた方がいいのかなぁ」
「「それは頼む」」
「即答かよ! 材料ねぇよ!」
ウソップに相談しないと、などと呟いている愛らしい動物に、もはやシーザーは涙目だ。
何故だろうローも目頭が不意にジンとした気がして、唇を噛んだ。つまりあれだ、この船医も船長もあの鼻の長いウソップという狙撃手もこの二人のことを知っているということだ。
「じゃ、風呂入ったら今晩な」
「今晩の見張りは…おおい、フランキーお前今晩見張りだったよな?」
前方の舵を取っていた機械仕掛けの大男が手を振る。
「夜はおれらしけ込むから、夜食はいつもの通りでー!」
「アーウッ!わっかいねぇ!」
それに笑ってサンジが蹴る真似をする。
「ピッチビチだ!」
フリーダム過ぎる。
本当に霧になって消えてしまいそうなシーザーが、すがるようにローを見たが、ローは無視した。
こういうことは、無視するに限るのだ。
「ヨホホホホ展望室壊さないでくださいねー、二人とも激しいんだから」
陽気な骨が陽気に紅茶を持って歩いて行く。
…これがこの船の日常なのか…。
無視を貫いても、何故かしたたる冷や汗を感じてローは無理矢理目を閉じた。
閉じて正解だった。
すぐ傍で、チュッと濡れた小さな音がした気がしたが、あれは船底を叩く水音に違いない。そうだ、そのはずだ。
その後はなんら普段と変わらない様子で、ゾロとサンジは気に入らないことがあるといっては、乱闘騒ぎの喧嘩をしたり、くだらない言い合いをしたりとしているのだが、あまりにもさり気なくえげつない会話が繰り広げられることに、ほんの数時間後には気づき、
「子供の教育上良くないぞ」
と真顔で思わず説教するハメになるとは、この時のローには想像も付かなかったのであった。
終了(2015.6.16)
ツイッターの診断で出た『ほしづきのゾロサンは、もう食事感覚で当然の様にセッ○スします。完全に生活の一部で、特別とか恥ずかしいとかの感覚はありません 』という代物に、恥じらいもとうよ!と返したら読みたいとリクエスト貰ったので挑戦して玉砕した代物でした。
忘れていたけれど、これも…残すべきなのかと…思いまして…こちらに収納してみたという2016新年早々(笑)
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