この島で買い出しをするのは、基本サンジの役目だ。
ゾロも一応駆け回ってはいるが、何せ酷い方向音痴-----しかも自覚なし、というはた迷惑な人物だ。ゾロに任せていては、期限内に揃うものも揃わない。
それに、交渉というものを理解しない獣は、時折とんでもない買い物をしてきたりもするもので。
結局サンジがもう一度出かけるという二度手間になることも少なくない。そうなればやはり必然的に、買い出しはサンジの仕事になる。
メリー号の中でも周知の事実としてまかり通っているこの事実は、この島でも遺憾なく発揮されており、島の中の町はサンジがかけずり回ってることの方が断然多かった。
…はっきりいって、ゾロ1人がここに来ていたとして、いったい何の役にたったのだろうか? と真剣に思う程だ。
サンジはゆっくりとスラックスへと両手を差し込んだ。
やや猫背気味に、ゆらりと立つ。
じっとりと湿った高い温度を宿す風が、なまぬるい腐った水を思わす匂いをつれて吹き抜ける。
買い出しが終わって帰ってきてみれば、そこには大きな家がそびえ立っている。
サンジの髪がその風に重そうに微かに揺れ、それにいらついたのか青い彼の瞳がわずかに眇められた。
目の前には、低く作られてはいるが緑の生け垣が口を開いたかのような門。
緑で囲まれてはいるが、ふと気付いてみれば、それは何かを閉じこめる檻のようにも思えた。
見る者の角度によって、見えるモノの印象というものは変わるものだ。
自分はこの家を閉じこめるモノと見ているのだろうか?
剣士にふさわしい家。
西日に晒され、赤く染まったその大きな家をサンジはきつく睨み付けていた。
聞こえてる…?
元々玄関から入る気はなかったが、入れと言われてもなんとなく入りたい気分ではなかった。
だからというわけではないが、庭を回り外にある風呂場の横を通って台所の方に回る。
なんとなく気になって風呂を見ると、もう風呂の窓が開いている。傍を通れば水の匂いもする。ということは、ゾロは風呂に入ったのだろう。
この島に来てからのゾロの習慣は、今日も今日とて正確に行われたらしい。
だとしたら、今頃は縁側のある部屋ででも横になって、太平楽に寝ているのかもしれない。
…寝ていてくれ、となんとなくそう願いつつ、サンジは重い息を吐きながら台所横のドアを開けた。
「おう、遅かったな」
軽く告げられた言葉に、サンジは思わず目を見張った。
そこには髪を濡らして立つ男が1人、柄杓に汲んだ水を口元に持っていってる姿があった。
「………なにしてんだ? てめぇ……」
一瞬頭が真っ白になったのは、その見慣れた男の見慣れない姿のせいだ。
濃く深い黒に近いと思われる紺のこの島特有の着物を男は着ていた。
全身を覆う大きな布のようなもので作ったそれは、躰の全面で合わせて腰の辺りを幅の太めの紐のような布で巻いている。
その巻いた布に、三本の刀が差されていて、これがまた妙にしっくりきている。
暑いのか、ゾロはかなり胸元をはだけさせ、胸の大傷をさらし袖を肩までまくりあげている。
「風呂入ったら、喉乾いたから水のんでる」
何事もなかったかのように平然と告げる男は、わずかな西日の赤い残光にピアスを弾き、被っていたタオルを片腕でがしがしと無造作に頭を拭きまくった。
飛沫が飛ぶっ、やめろ! と文句を言いつつも、サンジはゾロから目が離せない。
がっしりとした首の太さ、肩幅の広さ、なによりその胸板の厚さ。
そんな見慣れたゾロの姿だというのに、どうしてか今初めて見るもののような感じがして、驚いたのだ。
ゾロは…こんな男だったか?
この島の着物が、妙に似合っている。違和感がない。それは、ゾロの生まれた所と似ているということもあって、着慣れているからかもしれないが、それにしても馴染んでいる。
なによりも、この家の雰囲気に。
ゾッと冷たいものが背筋に走った。
「お前、その服…」
思わずそう呟くと、ゾロは今更気付いたかのように自分の姿を見下ろし、タオルの下からサンジを見た。
「ああ、さっきラサカだっけ? あの男が来て、着替えに不自由していると困るだろうから、と置いていった。お前の分もあるぜ」
「ラサカぁ!? あんのクソ神官! 何考えやがるっ!!」
吐き捨てるように言うサンジに、ゾロは少しだけ目を見開いた。
「会ったのか?」
「ああ、昼間な。お前、そんな服脱げ!!」
ギラリと睨み付けるサンジに、ゾロはすっとぼけるように視線を流した。
「…こりゃこれで意外と涼しいんだよ…」
「ああ? いつもいつも爺シャツ腹巻きの男がなにほざいてやがる! 脱げ!」
「脱いだら着るもんがねぇ」
持っていた柄杓をポンと投げて水場に置くと、ゾロはあっさりと告げて居間の方へと足を向ける。
思わず追ったサンジに、ゾロは庭の方へと続く別の扉の方を肩で指し示した。
「風呂湧かそうとして、灰を被ったんだよ。全部洗濯したから、替えがねぇんだ」
「馬鹿かっ! テメェは!」
「んだと、オラっ」
反射的に睨み合った2人は、そのままどちらからともなく視線を外した。いつもなら、そのまま喧嘩に発展する展開なのだが、どうにも奇妙な間が走ったのだ。
なんとなく直視できずに目を逸らしたサンジもしかり、ゾロも何故か少し困惑したように目線を外す。
2人して作りだした違和感をそれぞれが直視できずに、睨み合いは解消してしまう。
ちっと舌打ちしてゾロは身を翻した。そのまま部屋へと上がっていく。動けば気にはなるゾロを半ば呆然と見送り、サンジは大きく息を吐き肩を落とした。
どうすればいいのだろう。
そんな疑問がわき上がる。ラサカも何を考えているのか分からないが、それよりもゾロだ。
なにかがおかしい。
ああいう時に、ゾロがサンジから目をそらしたりしたことは今までなかった。元々船の上にいる時から、サンジへの態度が変わってきてはいたが、それでも喧嘩になろうとした時、相手を見据える時に目をそらしたことはなかった。
ゾロの変調はこの島に来て、加速しているのではないだろうか?
それが実感として分かる。いや、今はっきり分かったといった方が正しい。
それはゾロの中にある何かが表面に出て、おかしいと感じているのか。
それともこの状況のせいで何かが狂ってきているのか…それははっきり分からない。
だが、確信した。
やはりゾロは、ゾロらしくなくなってきている。
ほんの少しの時間とはいえ、この家から意識して外に出てみて良くわかった。島の違和感を目の当たりにして、初めてそのことに気付くというのも変な話だ。いや、一度この場所から離れてみたからこそ、分かったのかもしれない。
くらりと目眩のようなものまで感じて、サンジは俯いた。
この家に戻ってきて、扉を開けるまでわからないった。
そんなこと、今まで感じたこともなかったというのに。
ゾロの影が薄い。
いや、それも正しくないのかもしれない。
ただゾロを形造る、放射するような強い気配が薄れているのかもしれない。
やはりあの刀に吸い込まれた鎌のせいなのか。それとも…元からこの家の何かは…ゾロを狙っていたのか。
「…やべぇだろ…」
思わず呟いて、さらにゾッとした。
この家には、自分とゾロしかいない。他に頼るものはいないのだ。頼りたいとも思わないが、それでも今まで傍にいた仲間の存在が薄いのは心許ない。
そんな気分になるところが、既に自分もこの家に取り込まれているような気がしてしまう。
ここにいる限り、しっかりしなくてはならないのは、自分の心持ちだ。
まだ暫く、自分たちはこの島にいなくてはならない。ログが溜まるまで、まだもう暫くかかる。
その上、こんなワケのわからないことで、ゾロを失うわけにはいかない。自分が傍にいながら、ゾロを失くすわけには…。
そこまで考えて、サンジはばっと部屋を振り返った。
失う?
外の明かりが色あせていくなか、部屋の中はさらに暗く、まるでそのまま閉じていってしまうかのようだ。
質量をともなった闇が、まるで足下から這い上がってくるような、そんな底なしの暗さが口を開けようとしている。
今、そこに入っていったのは…
「ゾロッ!!!!」
思ってもみなかった声が自分の喉から飛び出す。
怒鳴ったというよりかは、いっそ悲痛なまでの叫びに似て。
そんな声を上げてしまったことにも気付かず、サンジは闇にとけ込みそうな部屋を懇願するように睨み付けた。ダメだ、やれない。
こんな家に、あの男をやるわけには…。
「っんだ、どうした!?」
奥の部屋の襖がパンッと盛大な音をたてて開き、奥から飛び出してきた男は走り寄ってくる。
そのどこか慌てたような動きで部屋から抜け出してくるようにこちらに来た男に、本気で安堵してサンジはほうっとその場に蹲りそうになっていた。
その場を誤魔化すのに、サンジが多大な労力を使ったのはもう言うまでもなかった。
夕飯の準備のせいで、本当に暗くなってしまってから風呂に入ろうとしたサンジをどう思ってか、外ではゾロが火加減を見ている。
ランプの明かりで入る風呂は薄暗いが、意外と不自由はない。
水道が引かれている為に、シャワーも蛇口からも水は出る。
だが、出るのは水。
お湯がでなくてなんのシャワーか? と初日に盛大に荒れて文句を言ったサンジだが、シャワーでお湯を出す為には隣接する火口で火を焚いて別のタンクに貯めた水を沸かさなくてはならないらしい。結局湧かすのはどっちも一緒なので、風呂の湯を沸かすついでにシャワー用の水も沸かすことにしていた。
だが、シャワーのタンクは小さい。
1人が使ったら、やっぱりまた沸かさなくてはならないので、先にお湯を使ったゾロはサンジが使う時にはやはり追い炊きをしている。
風呂に入ってまで、また汗だくになるのもどうかと思ったが、これにはゾロは文句をつけることもなく、進んでやってくれたていた。
火で直に焚いた風呂は、柔らかい気泡を含んでとても水がまろやかだ。
五右衛門風呂というらしい、湯船に浮いた板を踏んで入る風呂は最初は入り慣れずに困惑したが、慣れてくれば快適だ。
ゆっくりと風呂に浸かりながら、サンジは躰から力を抜いた。
それだけでも疲れが流れ出ていくような気がしてくる。ほうっ、と自然に口から漏れた吐息に、外から微かな笑いに似た気配がしたのを感じた。
ゾロだろう。
あの時、叫ぶようにしてゾロを呼んだサンジに何を感じたのか、あれからのゾロは付かず離れずサンジの傍にいる。
呼んでしまいはしたが、やってきたゾロにどうすればいいのか分からず、ついなんてことはない用事をいいつけたり、あたふたと困惑するだけしていたら、何を勝手に解釈したのかゾロはあっさりと傍に戻ってきた。
それだけではなく、仕方なさそうに辺りを見回したりして、何もいないぞと断言したりしていた。推測するに、多分サンジが嫌いな虫でも出たのだろうとでも思ったのだろう。サンジの虫嫌いをゾロは良く知っている。
それからはランプなどをサンジが夕飯の準備をしている傍で用意したり、となにくれとなく近くにいるのだ。
それはそれで有り難かったのだが、失敗したような気もしてしまっている。
虫だと解釈してくれているようだが、本当にそれだけなのか疑問だ。もし虫だけが原因だと思っていたら、こんなに傍にいようとはしないのではないだろうか。
ゾロは自分を船に帰そうとしていた。その考えをあの様子では強めているのかもしれない。
することを終えたゾロが台所で今日の夕飯を作っているサンジを居間で横になりつつ見ていた時も、何度かもの問いたげに話かけようとしていた。
それをあえてサンジは別の話題などでかわしてきたが、成功したとは思っていない。
パシャリとお湯を掬って顔に当てると、火と水の柔らかく混ざった匂いがする。煙の匂いも混ざっているのに、それは本当に懐かしさすら感じる穏やかさで胸に迫る。
スモークしている時の匂いにも似ている。
それとも、この間の島でのキャンプファイヤーでの匂いか。
これも大地の匂いなのかもしれない。
「なぁ、ゾロ」
風呂の中から響く声で呼びかければ、「なんだよ」と気のない声が帰ってくる。それに気をよくして、サンジはぬくもった躰をお湯から引き上げた。
ザバリとお湯が溢れる音がする。
締め切っていた窓を開けると、日中よりも随分冷えた風が入り込み、風呂場に充満していた湯気を吹き飛ばしていく。
窓からひょいと顔を出せば、しゃがみ込んで火吹き竹を持ったゾロが火口から見上げてきていた。
「昼間来たあのクソ神官、なんか言ってたか?」
「あ?」
先程台所で話をしている時に、昼間に出逢った時のことは粗方説明してはいたが、肝心のことをサンジは話していなかった。
剣士にふさわしい、と告げた声。
あれは本当にラサカのものだったのだろうか?
「なにかって、なんだよ?」
「いや、ただ…服持ってきただけかと思ってよ」
ゾロは軽く眉をしかめると、唸るように首をさすった。
「あー…着たきり雀じゃ、この暑い島では辛かろう、とかなんとか変なこと言ってたな、そういやぁ」
「ああ!?」
ビキッと瞬時に眉間に皺を寄せたサンジに、ゾロはため息まじりに続けた。
「おれに当たるな。ほっとけ、とあいつには言っておいたけどな。丁度灰を被ってたところだったからなぁ」
真っ黒になっていたゾロに、ラサカは笑いながら着替えを押しつけていった、とどうやらそういうことらしい。
益々人相を悪くしたサンジに、ゾロはなんでもないことのように再度「ほっとけ」と告げると火加減を見る為か、火口に顔を寄せた。
赤い火の彩りに、ゾロの顔が浮かぶ。
顔に寄り添うように流れる三連のピアスが、火に鈍く輝くのをサンジはなんとなく見入った。
「…まあ、着物に罪はねぇな」
そんな自分にあらためて困惑しつつ、サンジはぽつりと呟く。
「なんだそりゃ」
笑いながら、ゾロは火吹き竹に口をつけるとそっと息を吹き込む。慣れた様子は、やはりこういうことを昔からゾロがしていたことを思わせる。
ゾロの小さい頃とは、どんな感じだったのだろう。
興味だけは、次から次へと沸いていく。それをもう自分では止められない。
「あんのクソ神官が持ってきたと思うだけで、服なんぞ着たくもねぇと思ったんだよ。…でも服には罪はねぇだろう?」
「本当になにがあったんだよ、昼間」
「この家の文句言ったら、こんな豪勢な家で不満かと言われたんだよ」
「…あー、なるほどな」
思うこととは別の話をそれとなく続けながらも、やはりサンジは肝心なことを話す気にはなれなかった。
「なあ」
「あ?」
「ラサカの声って聞き取りにくくねぇか?」
それでもこんな他愛のない時間がなんだか無性に惜しくて、サンジは風に当たるふうを装いながら思いついたことを話かける。
少しでもこの時間が長く続くように。
「あいつの声のひどさには参った。昼間会った時も、聞き取りにくくてよ。そのくせ小さい声でぼそぼそ喋るから、さらに聞き取りにくいときた」
「ふうん」
「ふうん、て他に感想ねぇのかよ」
「おれはあいつとはほとんど話なんかしちゃいねぇからな」
けっ、と言い捨てて、サンジはお湯に浸かりなおした。
そのまま2人して暫く、無言のままに過ごす。
「…着てみろよ、着物。意外と楽なもんだぜ…」
そっとゾロの声が告げる。
「そーだな…」
もう持ってきてる…とは言いがたく、すぐにばれることだというのに、そう答えてしまってまた沈黙が落ちる。
だがそれは何故か不満のない、温かな沈黙だった。ポチャンと、天井から落ちる雫の音に木の爆ぜる音が時折まじる。
ゆったりとした中で、そのままこの沈黙に浸っていたいのに。
どうやらそういう時間は続かないらしい。
お湯から上がったサンジは、手早く躰を拭く。外から無言のまま、火を落とす為か灰を被せだした音がする。
持ってきた着物を広げ、見よう見真似で袖を通していく。着方は風呂に入る前にゾロを観察してある程度は理解した。軽口に任せて、軽くレクチャーも受けたので、そんなに難しいとは思わない。
「そろそろか」
「…ああ」
「今日も聞こえるか?」
「さあな」
この島に来て、いや、この家にきた最初の日。家の中を歩く音を聞いた。
それから意識しようとしまいと、様々な音がこの家につきまとっているのを2人は知った。ゾロにいたっては、耳鳴りに近い妙な音まで聞きまくっている。
かくいうサンジも、昼間に奇妙な音を聞いた。
この家には音がまとわりついている。
その中でも、一定の時間になると聞こえてくる音がある。
それに気付いたのは、2人同時だった。
急いで着物の帯を巻いていく。沈んでいくような深い濃緑の着物は、よく見れば織方による模様のようなものがある。それに黒に近い灰色の帯は、なんだか不思議な色目で布になじんだ。
半ば適当に着込み、サンジは扉を開いた。そこに、ゾロがいる。ランプを手にサンジが出ていくと、ゾロは一瞬サンジに目をとめてしげしげと見入った。
なんだよ、と態度で示せば、小さい笑みがゾロの口元に登る。
それが無性に腹立たしくて、小さく蹴り出せばゾロはますます笑って避けながら、それでも傍に立った。
その音は家の中からは聞こえない。
2人してランプを道しるべに、家の周りを歩いてみる。
着慣れない着物になんとなく歩きにくくしているサンジを気遣ってか、ゾロの歩みはゆっくりだ。広い家は歩けば結構な外周がある。
ふと、2人して歩みを止めたのは、多分以前隠し部屋を見つけた辺りの箱庭の方だ。
風が止んだ。
シンとした空気が生ぬるい外気の中に生まれるのを、2人は感覚で知った。
タン
微かな音がする。
何かを叩くような感じの音だ。そして続いて、擦るような音が響く。
ジャリリ
引きずる音なのだろうか? それともやはりなにかを擦っているのか。
タン
音は続く。
ジャリリ
微かな音だ。意識しなくては気付くことの方がないようなくらい、小さい音なのだ。
なのに妙に頭に響いて、ゾロもサンジも気付かずにはいられなかった。
晩酌している最中にも、話あっている最中にも、喧嘩している時でにも。
まんじりともせず、向かい合っている時でさえ。
頭の中に響いてくるようなその音は、意識する前に耳に届いて存在を知らせてきているかのようだった。
タン
音は流れていく。
何をしている音だというのだろうか。
ジャリリ
「聞こえているか?」
囁くように、サンジはこの音について初めて口にだした。
今の今まで、2人ともこの音については暗黙の了解のように声には出さずにいた。だが、お互い気付いていることだけは、息をするより簡単に気付いてしまっていたのだ。
昨日、刀を間に2人して向かい合っている時に、この音に反応したのは同時だった。
だからこそ、やはり気付いていたのかと確信した2人はこの音を探しに、ここまで来てみたのだ。
音だけが聞こえてくる庭には、なんの変化もやはりない。
細い月が中天にさしかかっているのが、ここから見えることを確認しながら、サンジはそっとゾロを見た。
タン
かそけき音がする。
ゾロはそっと目を閉じ、そうして、サンジの問いかけより静かに、それこそ幽かに囁いた。
「聞こえてる…」
ジャリリ
音が止まった。
(2007.6.25)
人は切羽詰まると、なんでもこなすものかもしれません…。さくさくいきたいです。ほーら夏だよ!T_T
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