その話をいつ聞いたのか、覚えてはいない。
ただ、あの店で飯を食べていた時に、そこの板前が楽しそうに話ししていたことだけは覚えている。
底なしに食べるまだ頑是無くすら思える岡っ引きが相手だったはずだ。ツケの癖にさらに飯をねだろうとするのに、板場から飛び出して蹴りで鉄拳制裁を加えていた。
無邪気さを持ちつつも、度量の広い岡っ引きは楽しそうに板前ととっくみあい、なし崩しに騒ぎは終わっていた。
そうして、いつの間にか客も随分引けた席で、店の女将と板前、岡っ引きの親分にその手下と青鼻の獣なのに医者といういつもの面々とで話が出たのだ。
くるりと鮮やかに回した煙管の先を煙草盆に小気味よく打ち付け、吸い口から灰を落とした板前は、見たこともない表情をしていた。
理解したくない子供のような…けれど、もう知ってしまったことを無くせないような。
なんとも場違いな、けれどこちらをチラと流し見た目だけは、胸を突くような色を滲ませ。
面食らった自分を見てどこかで落胆したように俯き、けれど言葉だけは軽く語ったのだ。
「小さな小さな頃の、きっと夢見たことなんだろうよ」
細い雪が降っていたのさ。
『奇談夜話』
〈前編〉
「あの…お坊様…」
大川の袂、堤防の上だからか雑草もある程度は刈り取られてはいるものの、人一人など簡単に埋まりそうな緑の中に向かって、まだ年端もいかぬ娘が所在なげに佇んでいた。
ひどく緊張しているのか、震える手をもう一方の手でくるめ、まるで祈るような形にして胸元に寄せ、声を絞り出すようにもう一度、声を出した。
「ここにおられると…風車というお店で聞いてきました。お坊様…ロロノア様、いらっしゃいますのでしょう?」
川端からさらさらと風が吹き、心地よい音と共にさわりと緑の葉が揺れた。
その中を、チッと不自然な音が響く。
娘の目が音の場所を探して揺らいだ。
川端を見ていた目が、思わぬ程近くで大きな音を聞いて慌てて後ずさる。じゃりっと土を踏みしめる草履の音が響き、その傍でむくりと起きあがった影が見えた。
鮮やかな緑の短髪。左耳には金色の三連の輝き。くわっと欠伸をして伸びをする姿はのんびりとしているはずなのに、妙な迫力があった。
強面の男だと聞いていた。確かに鋭い目つきが胡乱気に見下ろしてはきていたが、思った以上に整った顔立ちをしていることに、すぐに気付いた。優男風というなら、風車の板前がまず出てくるが、それとは違う。漢くささを前面に出した、精悍さだ。
だが、そんな自分の容貌など歯牙にもかけていないと分かるのは、衣服だ。ボロボロではあるが一応僧侶と分かる法衣を纏い、大きな数珠の首飾りをしている。見ただけでまっとうではないと宣言しているに等しい。
そして その右手にある大きな細長い包み。普段は背に負っていると聞いている。
コクリと娘の喉が鳴った。息を呑んだのだ。
「なんの用だ」
心地よい若々しい声が張りを伴って娘の耳に届いた。低い声ではあるが、響きが低いばかりではない。風車の板前も低い良い声をしているが、時々あの板前は甲高い声で惑わす。
さすがおナミさんの紹介する人物だけある。
そう思いながら、娘は震える両手をそっと下げ。頭も下げた。そうすると、頭上に二つに結わえて浮いているように見える不思議な髪型が、しっかりと男の目に見えた。どうやってその髪型になるのか、考えても分からないと分かっていてもついしげしげと見入っていると、そのまま声が聞こえた。
「お願いいたします。物の怪退治をお願いしたいのです」
「…おれは見ての通りの破戒僧だ、調伏なんてのは、もっと立派な坊主か神主がするものじゃねぇのかい?」
笑い含みに声が尋ねると、娘は反射的に身体を起こし、大きく首を横に振った。
「いいえ。いいえ…いえ、勿論…勿論頼みました。有名だと言われるお寺のお坊様にも、大きな神社の神主様にも、頼み込んでお祈りしていただきました。皆様すぐに良くなる、もう何もなくなると申します。確かに二日、三日ほどは何事もなく終わりますが…結局もとに戻ってしまいます」
音を立てて男は立ち上がった。
娘よりも大分背が高い。多分風車の板前と同じくらいの背だろう。
だが躰つきは違う。どう考えても、坊様でいえば修行僧。それも荒くれ専門の僧のもつ代物だ。厚い胸板に鍛え上げられた腕の形すら、布越しに分かる。
自分で破戒僧と言い切った男は、軽く肩を回した。
鋭い眼光が、異様な迫力を持って娘を見下ろした。それだけで、何もかもを見透かされているような気がする目線だった。
「そんなら、もっと格の高いヤツに頼むこった」
「それにはお金がかかりすぎます!!」
切実な響きの声に、男は少し目を見張った。
涙目で見上げてくる娘を見つめ、面白そうに男は続きを促す。
「用意できるお金の大半は、もう神社やお寺にお渡ししてしまいました。結果が出なかったと申し上げたら、信心が足らぬとさらなるお金を要求されます。そうして祈ってもらっても、また同じことの繰り返し。もう…もう手段も尽きました! そうしたら、風車の方々が、もしかしたら貴方ならなんとかできるかもって…そう…教えてくださったんです! そ、それなのに…っ」
うわーんと本格的に泣き出し、蹲った娘に男は慌てたように周囲を見回し、がりがりと首筋を掻いて大きく大きく吐息をついた。
こういうのは苦手だ、と態度がはっきりと語っている。
「…泣くな…困ってるのはおれの方だ。ったく、あそこはろくな事言ってこねぇな…。おい、お前はおれに何をさせたいんだ」
こんなことを聞いたら、もう終わりだと分かっていても聞かずにはいられない。
「すみません…すみません…でも…でも…」
泣きじゃくる娘は、嗚咽をこらえようとしながらも、震える肩を押さえることもできずにしゃくり上げている。嘘泣きでは断じてなさそうだった。
風車で聞いてきた、と言っていたからもしかしたらあの店のおナミの差し金かと思ったのだが、どうやらそうでもないらしい。
暫く男はそのまま佇んでいた。
声をかけることもせず、ただじっと娘が泣き止むのを待つ。
風がさわりと川面を渡ってきた。最近めっきりゆるんだ風は、どこか馥郁とした温もりを含んでいて、のんびりとした空気を伝えてくる。
さわりさわさわ。
さわさわ…さわり。
風が渦巻くのに併せて、緑の草の葉がすれて音を立てる。ひそやかな音は、けれど耳を澄ませばいくらでも聞こえてくる。
それさえもが、温もりを孕んでいて、つい先日までの大雪をひと吹きで忘れさせてくれた。
嗚咽がいつの間にか治まり、どこかゆったりとした呼吸が聞こえてくる。
男はゆっくりと視線を下ろした。
着物の袖口で急いで目元を拭いていた娘は、そうやってみるとどこか窶れているようにも見えた。きっと自分と話ししていることで、一気に緊張が崩れたのだろう。
男はまたどっかりとその場に腰を下ろした。そうすると、緑の中妙に違和感なく男は納まる。
トントンとその手が横を叩く。多分座れと言われているのだと、大きな手をぼんやり見ていてはっと気づき、慌てて娘は横に座った。
並んで座って初めて、その場所が大川を挟んで左手に大きな端、手前に広がる城下の町並みの大半が一望できることに気付いた。
絶景だ。
ここは高台に位置した堤防になるらしい。歩いていただけでは分からなかった。そんな余裕すら、無くなっていたと気付いて、娘は恥ずかしそうに頬を押さえた。
「……私の名前は、コニスと申します」
小さく語り始めれば、隣の男は頷いた。
「ロロノア・ゾロだ」
きちんと名乗り返してくれたことに力を得て、コニスはここ暫くの出来事を話始めた。
コニスの家は、グランドジパングでも外れの方、街が途切れるかと思われる位置にあるのだという。
その背には大きな竹林があり、それを守り管理するのがコニスの家の勤めらしい。
元々良質な竹が群生する場所ではあったようだが、それをいつの頃からコニスの家が管理するようになったのかは分からない。
ただ、コニスの父も祖父もそのまた祖父も、ずっとこの竹林を管理してきたのだという。
竹は早春には筍。夏場から秋にかけては、竹細工などの竹の選別や切り出し、冬は竹炭をする為の加工等、やるべきことは沢山ある。放って置いてもある程度構わないのだが、ここの筍などはお殿様に献上する習わしもあり、ここの竹を使いたいものは、すべてコニスの家に許可をもらって手にするようになっていた。
またそのお墨付きも、きちんとお殿様からいただいている。
困ったことが起こり出したのは、新しい年が明けてからだった。
「…最初はどなたかが訪ねてくる気配があるのです」
確かに誰かに呼ばわれた。
そう感じて、きちんと声をあげて返事を返し、急いで表玄関に出てみても、誰もいない。
けれど確かに先程までそこにいた、という気配は残っている。それもなんとなく小さい人のような気がする。そんなざわめきが空気に残っているのだ。
「勿論、近所の子供が頼まれてやってきて、途中で何か忘れ物に気付いて帰ったとか、そんな風に思っていたんです。なんだかんだと人が訪れることの多い家でもあります。あ、挨拶の言葉は『へそ』って言います」
「……なんだ、そりゃ」
「挨拶です。何故かそういうしきたりなんです」
落ち着いてきたのか、クスクスと小さく笑い、コニスはゾロを見上げた。
「本当に日に何度も訪なう人がある家です。たまにそんなことがあっても、気のせいか、で終わるのが普通です。しかも年があければすぐに春。筍の時期になりますもの。筍掘りの許可を求めて訪なう人も少なくはありません。けれど…気のせいにしては、何やらおかしいんです」
そっと手を上げ、指先が空を踊っていく。
「最初は気付きませんでした。けれど、私だけではなく、父もよくそんな風になるらしいんです。誰かが来た、行って見るとさっきまで確かに誰かがいた気配がするのに、誰もいない。そんなことが、こう何度も。私は父と二人暮らしです。二人して、一日に何度もです。さすがに気になりだしました」
そうしてその誰かが居た、という気配が小さい人だろうという感覚まで一致するにいたって、これは何かあるのではないかと考え出した。
これから筍の時期もくる。忙しくなる前に、何やら不可解なことがあるならどうにかしよう、と考えても不思議はない。
しかしその感覚に統一性があるわけではなかった。
同じ時間にその何者かが来るわけではない。日によってばらつきもある。二人一緒にそれを感じたことはなかったが、これは昼間は竹林の見回り等にどちらかが出ているせいで、一緒の時間が少ないからだろうとすぐ知れた。
「どうにかしようにも、どうすることもできません。それに人が来たような気がして気のせいでした、といってなんら害があるわけでなし」
けれど気にはなる。
結局なんの手も打てぬまま日々が過ぎ、気付けば早場の筍の時期が始まった。
「毎日、訪れる人を確認し、また竹林に案内し、取れる所や取ってもよい場所を案内し始めました」
いつものことだったのに、やはり何かがおかしかった。
一番初めに言い出したのは、親子でやってきた筍取りの知人だった。子供がいなくなったと慌てた様子で自分らの元に駆け込み、手分けして探すことになった。その時に、
『 どうも、誰かいるような気がする。そうしたら子供がいなくなった。』
そう言っていたのだ。
竹が群生する林の中だ、そこを影が通るというのだ。
気のせいかと思うが、けれど、すっと過ぎる影を見る。目の錯覚といえばそうだ。似たような景色。揺れる竹の影かとも思うがそうではない気もする。
気を取られているうちに、そこにいたはずの子供がいなくなった、と。
幸い子供はコニスが見つけた。いなくなったと言っていた場所より少し外れた坂の下で、斜面の上からでは目線が行き届かなかったのだろう。そこで一人で楽しそうに遊んでいたのだ。
振り返った子は探したと声をかけたコニスに、笑顔で振り返り笹舟を掌に乗せて見せた。それを作って遊んでいたらしい。
とても綺麗なできばえに、褒めるととても嬉しそうにしていた。
なかなか見つからない早春の筍取りに飽きた子供が、遊んでいてはぐれた。
それくらいのことだと、その時は思っていたが、最後に子供はコニス達にこう言った。
『とても楽しかった、また遊びに来るって言っておいてね! 笹船ありがとう!』
「私が見つけた時、その子は一人でした。誰かと一緒だったの? と聞きたかったんですけど、それを聞く余裕もなくて…。そうしているうちに、やってきた人が次々に言い出しました」
誰かがいる気がする。
そういう噂はあっという間に広がる。
気味が悪いと訪れる人は減る一方、勝手な噂に興味本位でやってくる人や、肝試しを装って夜中に侵入してくる輩まで出る始末。
コニスと父親だけでは対応できず、始めはお役人にも申し出て色々と巡回等もしてもらったのだ。
だが、そのお役人が一人二人とまた嫌がりだした。
やはり何かがいるような気がする、ここは変だと言うのだ。
「そこにいたって、とうとう私らも何かしなくてはと言うことになり、知り合いの神社の神主に見てもらったんです。一通りのお祈りもしてもらい、悪いものはないと断言までしてもらって、やれやれと思っていたら……」
二日もせぬある日。
訪なう人の呼ばわる声を聞いて、コニスは返事をして玄関に出た。
しかしそこに人はいない。けれど、確かに今までそこにいたような気配が濃くある。さっと顔を青ざめさせたコニスが外にまで出て辺りを伺ったがやはり誰もいない。
どうしようか、と草履を脱いで式台を上がろうとした時。
笹の混ざったような土砂が薄く式台の上に広がり、その端。
細い指の痕が両手分、四本づつ、まるで取りすがるようについているのに気付いたのだった。
「…私は気を失ってしまっていたようで、その後戻ってきた父に助けられてようよう、その指の痕のことを話したのです。確かにそれは残っておりました。父もちゃんと見ました。それからも、有名なお寺や、お祓いが出来る人がいると聞けば訪ね、原因を解明してどうにかしようとしましたが一向に利き目はありません。そのうち妙なことは更に続き、私らの管理する竹林には今は訪れる人もありません。それどころか…このままだと管理不行き届きで私らはあの竹林からも家からも追い出されそうになっております」
コニスは手を合わせ、すがるようにゾロを見上げて祈った。
「どうか…どうかお願いいたします。お力をお貸しください、ゾロ様…もう…もう貴方様しか…」
涙ながらに一心に祈ってくる娘に、ゾロはもう両手を挙げて降参しか出来なかった。
頭上高く鐘の音が響き渡った。
同じ長さで三度。それから長さが変わってまず一つ。
時の鐘だ。
そこらに設置されている半鐘より響きがよく、また聞き取りやすい安定した音色だ。
音色は続き、しかも間隔が詰まっていく。
この音を聞けば、この街にいる者は今が何時なのかを理解する。そう、この街にいるものは。全て。例えどこにいようとも。
暮れ六。
夕暮れも押し迫り、既に道行く店も行商の類の人々も終い準備に入っている。
まだようやっと残った日差しが届く内にと、終いを進める人々の手は早い。
何度も訪れているはずなのに、けれどなかなか辿り着かない店を見つけられたのは、勢い良く飛び出してきた者の悲鳴を聞いたからだ。
そちらの方へと足を向ければ、今やられました、と言わんばかりの男が二人折り重なるように道の端に倒れているのが見える。
一目でやさぐれ者と分かる男達には一瞥もくれず、ゾロは暖簾をくぐろうとして立ち止まった。
さっと一歩引いて身を翻すと、その脇をもう一人男が吹っ飛ばされて行く。
なんとなく道ばたにひっくり返ってバウンドする男を見送って、ゾロは肩を竦めた。
相変わらず荒っぽいが、相手を見なかった男達の方が未熟だ。喧嘩は売っていい相手と敵う相手かを見極めることが、最初の一歩だ。
そのままほんの少し佇んでいると、暖簾をすいっとくぐって細い肢体が流れ出た。
「人様が機嫌良く美味い飯喰っている最中に、しかも麗しのレディにちょっかい出すのみならず、ナミさんに酌を迫るとは言語道断! 二度とこの店の敷居を跨ごうなんざ…許されると思うなよっ! 一昨日きやがれってんだ!」
たん、と軽く地を蹴る。けれどそれがどんな威力を持っているか、身を持って知った男達が呻きつつ、大慌てで逃げ去っていく。
「覚えていやがれっ!」と、悪態をつくことだけは忘れないのが、何故かワンパターン。
ゾロは無言でその始末を見定めると、そのまま暖簾をくぐろうとして、振り返った男とうっかり目を合わせた。
金色の髪を首筋でちょいと纏め上げ、すらりとしたうなじが見えた。身長が同じくらいだから、よくこうして目が合うのだろう。洗いざらしの着物の袖は紐で縛り上げられ、広げられた胸元には胸当て、腰には長めの前掛けが引き絞られ腰の細さが妙に際だっている。けれど、なよなよしさはまったくない。どちらかといえば、ガラの悪さの方が際だっている。
「んだ、やっと来やがったが生臭坊主」
「やっぱりてめぇか!」
「入口でグダグダしてんじゃねぇよ、さっさと入れ。仕方ねぇからなんか喰わしてやるから、せいぜい堪能しな」
ニッと笑う男へ、面白くなさそうに片目を眇めゾロは大きく溜息をつくと、ようやっと店へと足を踏み入れた。
「あら、いらっしゃい。久しぶりじゃない? また迷子?」
「うるせえ!」
きゃらきゃらと笑って寄ってきたオレンジ色の快活そうな娘に、ゾロは歯を剥いて「酒」と注文を飛ばす。
相変わらずねー、と呆れながらもこの店の店主でもあるナミは、威勢よく板場に入る男、サンジへと注文を飛ばした。
店は半分程席が埋まっていた。
そろそろ店じまいを終えた者達で、こういう一杯飲み屋も兼ねる店は埋まるのも早いだろう。それを考えると丁度良いタイミングだったのかもしれない。
珍しく空いていたカウンターの端へと腰を落ち着け、ゾロは背の包みを横に立てかけ傘をその上に置いた。
待つまでもなく、目の前に筍の酢味噌和えが置かれる。
「………嫌みか」
「酒のアテには最高だぜ、まあそれでも摘んでおけ」
すぐにナミがなにも言わずに程よく燗を付けた酒を持ってくる。
それで確信した。
グルだ。
昼間来たコニスを自分の元に寄こし、さあこの困った事態をきちんと解決しろと迫っているのは、この風車の面々全員だろう。
もしかしたらコニスをここに呼んだのは、あの麦わらの親分か下っ引きのウソップで、話の流れで自分にお鉢が回ってきたという線が一番濃厚そうだ。
唸りつつ、酒を手酌で呑みつつ筍を口に放り込むと、爽やかな酸味に筍に染みた深い出汁が絡まって異様に美味い。
思わず舌打ちして、さらに酒を呷ると、その味の余韻でさらに酒の味が変わって美味い。もうたまらなく悔しい。
なのでもう一つ、口にしてしまってさらに唸る。
「お前なにやってんだ?」
呻きながら酒を呑む男に、呆れたようにサンジは刺身を綺麗に盛りつけた皿を置いた。
しめ鯖だ。昆布で巻かれた切り身が、青じその上でしんなりとゾロの食欲をそそってくる。
「くっそ、おぼえとけよっ」
先程の男達と同じ文句を口にし、さっそく切り身に箸を伸ばすゾロを面白そうに見下ろし、サンジは大きく頷いた。
「おう、分かってるぜ。けど、話は後だ」
「…ああ」
それから店じまいまでの時間を、ゾロは板前からの盛大な品と酒を貢がれながら、存分に呑み喰いで潰したのだった。
あくまでサン誕です!祝ってます。例えこんな話であろうとも!
続きます…後編はもう暫くお待ち下さい…三月二日に間に合ったのはここまででした…おめでとう!サンジ!
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